8、9日に、東京・青山で国立教育政策研究所のシンポジウム「学校教育における科学的リテラシーの現状と今後の育成方策」に参加してきました。欧米諸国の科学教育の専門家を招いて子ども達の科学的リテラシーをいかに育てるかを、話し合うというものでした。
PISA調査の結果が話題になって以来、急に言われるようになったキーワード「リテラシー(Literacy)」。もともと「読み書き能力」とか「識字」という意味なのですが、転じて「ある分野に関する知識・能力」を指すようになったという(広辞苑)。情報リテラシーとか、コンピュータリテラシーという使い方は普段からよく聞きますし、「情報を読み解く力」「コンピュータを活用する力」と置き換えることができます。
では、科学的リテラシーとは? 科学を活用する力? 科学を読み解く力? いまひとつイメージがわきませんでした。でも、パネリストのひとりジョン・ホルマン氏(イギリス・ヨーク大教授)が上手い表現をしてくれました。
「よりよい消費者を育てるための勉強が、科学的リテラシーだ」と。
新しい発見をしたり、技術革新をもたらす専門家ーー科学者や博士、エンジニアを育てるための教育はもちろん必要。でも、もうひとつ大事なのは、誰もが科学というものの意味や考え方を理解し、よりよい判断ができるようにすること、つまり「賢い消費者」を育てることだ、というのです。そのためには基礎的な知識も欠かせないとも。
科学的リテラシーがないとどうなるか。イギリスでは新三種混合ワクチン(MMR)が自閉症を引き起こすという報道により、おたふく風邪の発症が増加したといいます(しかし、この報道は今でも行われているのですが)。ホルマン氏は「科学というものの意味や考え方を理解し、よりよい判断ができる」科学的リテラシーはこの21世紀には必須だと話します。
以前「にがりはダイエットにいい」という情報を鵜呑みにして大量摂取してしまい、病院に担ぎ込まれた人がいました。たしかに、にがりはカリウムなどのミネラルは含んでいますが、イコール痩身効果があるとはいえません。科学的リテラシーがないと命が危ない、ということもありうるわけで、賢い消費者を育てる=科学的リテラシーの育成という説明が理解できます。
しかし、ホルマン氏は同時に科学的リテラシーを取り入れたカリキュラム編成にはある種の危険性も伴うことを指摘していました。身近な素材を使った教科書を作ろうとすると、関連団体のロビー活動が活発になるからです。「誰がカリキュラムに対して責任をとるのでしょうか? 教師か、納税者か、企業なのか。それぞれから意見を聞いてカリキュラムを組み立てていくことは非常に大切です。特にロビー団体には注意する必要があると思います」。
同じくヨーク大のロビン・ミラー教授も「何をどのくらいまで深く教えるのかの基準を作るときに、なぜ今、若者がこれを学ばなければならないのか、という本当に有益なチェックリストを作るべきだ」と言っています。アメリカのBSCS (Biological Sciences Curriculum Study)名誉代表のロジャー・バイビー氏は、何を教えるかについて「個人的見解だが、正義、オートノミー(自律性)、倫理も含まれるべき」、会場の参加者からは「例えば原子力について学んだときに、生徒の議論がオープンエンド型になることを学習指導要領は保障してくれるのか」という意見もありました。こうなってくると総論賛成各論反対というのはどの国でも同じなのかな、という気もします。先進各国は科学的リテラシーの育成の必要性は認めているけれども、カリキュラムを作るには検定なり、ロビイストなりという障壁があると。
国際シンポジウムというのは概してお国事情の違いから、話がズレまくることが多いのですが、今回は「科学的リテラシー育成は急務」という方向で全員一致しているのが非常に印象に残りました。PISAなどで明らかになった「科学を仕事にしたいという若者が減っている」という、先進国共通の危機感が根底に流れているのは間違いありません。このような世界の潮流は、学校の先生だけでなく、また一部のエリートだけでもなく、大人全体に発想の切り替えを求めていると言っていいでしょう。これを「教育・学力観リテラシー」と名付けたりして。
【写真】ホルマン氏が所属するヨーク大学では科学的リテラシーを重視した「Twenty First Century Science」という教科書を出しています。展示されていたサンプルを見ると「健康」「生命」「大気」など日常生活に関連づけた単元を立てていました。例えば「物質」の単元では、導入のとびらにチョコレートでコーティングした子どもの素足の写真を載せています。「この足を見てあなたはどう思いますか? 1.おいしそうだ。2.家の中が汚くなるだろう。3.溶けてしまう。・・・」といったQ&Aが載っていました。ユニークですね。
Twenty First Century Scienceのサイト、FAQやAbout Us などを読むと、科学的リテラシーをなぜ身につける必要があるのかが書かれています。
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